2014年6月19日木曜日

農業機械、化学肥料、農薬などの価格の変遷

この精神を受けて打ちだされたのは、要するに、農業余剰の国家への吸引システムを廃棄することによって農業余剰の農村内留保を図り、もって旧来の政策の根幹を変革しようという試みであった。その概略は、以下の二つにまとめられる。

一つは、国家の農産物買上価格を引き上げ、逆に農民の利用する農業投入財価格を引き下げ、つまりは「農家交易条件」の改善を通じて農業余剰を農村内に留保することであった。三中総決定により、食料の統一買付価格を一九七九年夏季の出荷時以降、二〇%引き上げ、超過供出分については引上げ幅をさらに五〇%増とした。経済作物や副業生産物の買上価格もまた、順次引き上げられた。

対照的に、農業機械、化学肥料、農薬などの価格は、一九七九~八〇年に十〇%から一五%の幅で引き下げられることになった。この農家交易条件の改善を通して「価値法則」によるところのシェーレがどの程度縮小したのかは、不明である。しかし、生存維持的水準を上まわる余剰のほとんどすべてが国家に吸引されて貧困にあえいできた農村の姿が変化したことは、まぎれもない。買上価格の引上げは、あとで述べる「農業生産請負制」の普及とあいまって農民の増産意欲を強く刺激し、そうして一九七九年以降、農民所得水準は新中国の建国以来、最高の高揚をみせたのである。

二つには、農産物買上価格が引き上げられたばかりではない。国家統一買付の品目と数量をしだいに減少させるという方向も選択された。農民が自由市場においてより高い価格で販売しうる農産物の品目と数量を増大させたのであり、これによって意欲ある農民層に留保される農業余剰は大きいものとなった。

この面での画期的な変化は、一九八五年一月に国務院によって通達された新価格・流通政策であった。新政策により食料と経済作物に関する長年の国家統一買付制度の機能はいっきょに弱まり、かわって契約買付制度が一般的となった。野菜、肉類などの副食品については、これを完全に自由流通制度にまかせることになった。契約買付制度とは、国家が農民とのあいだで結んだ播種前契約にもとづき、市場実勢価格により農産物を買い上げる、という新制度のことである。強制買付制度を根幹とする、第一次計画以来、長らく強力に維持されてきた農産物に対する国家支配力は、いちどきに弱いものとなった。