2015年12月7日月曜日

進む中国の国際化

その中国では、ドイツ、フランス、アメリカ、日本の各国のブランドで乗用車を組み立てており、一部の軽四輪バンタイプのタクシーを除けば、乗用車のほとんどは外国製である。ソウルを走る乗用車の大部分が韓国製であるのとは、対照的な風景である。長江上流の雅碧江では、一九九九年末に中国最大の水力発電所三三〇万が完成したが、この設計から施工まで、イタリア、フランス、中国の企業が共同で請け負い、世界銀行からの一〇億八〇〇〇万ドルの融資を受けている。文化大革命中の、何から何まで自力更生でやりぬくという経済・技術戦略とは、なんという変わりようであろう。
 
世界の人口の五分の一を占める中国が、その門戸を開いて急速に国際化しつつある。あらゆる分野の多国籍企業が、中国大陸にも、中国周辺の沿海にも宇宙空間にも続々と進出しつつある。中国の国際化が進むにつれて、海外の動きと連動して、さまざまな利害関係や思想が生じることは避けられない。そのため、広大な中国全土にわたって、北京から十二億の人を政治的に統括するのは、次第に困難となるに違いない。
 
各省・自治区の分権化は、建国後も何度か試みられ、そのつど混乱が生じて中央集権化に戻ることをくりかえしてきたのだが、結局は分権化へと進まざるを得ないのではないか。これも性急に行えば、中国は混乱し、その影響は東アジアから世界にも及ぶであろう。アメリカへの一極集中から多極化への移行と同じく、二一世紀の世界は、中国がいかにして分権体制に軟着陸するかという課題につきあたる。
 
ところで、日本と中国を含めての東アジアの諸国・地域の対米輸出依存度は、ひところより低下したとは言え、依然として高い。それぞれの対米輸出額と総輸出額に対する百分率、さらに対日輸出額・輸入額、主要輸出商品の第一位、第二位を示す。東アジア諸国・地域は、家庭用電子機器やそれらの部品や衣料などの生産と輸出を軸として、経済成長を推進し、それによって域内市場を拡大させつつあり、その点て、世界のなかでも際立った特徴を持っている。また主要輸出品の対米依存度や、主要輸入品の対日依存度がきわめて大きいことでも特徴がある。

2015年11月7日土曜日

軽催眠段階の催眠

催眠療法というものは、深い催眠状態がえられなければ効果がない、と思われてきた。しかし、催眠に深くかかるかどうかは、ひとつは治療面接にのぞむ患者の態度により、また個人差にもよる。大切なことは、治療をもとめてきた人が、どの程度の深さの催眠状態になるかに応じて、それによく合った方法を用いることである。浅い段階でも、治療のすすめ方によって、十分効果があるものである、催眠の深さは、現在いろいろな研究者によって、さまざまなスケールが考案されている。では、類催眠段階、軽催眠について説明しよう。類催眠状態では、覚醒暗示が用いられる。ドイツの精神医学者、J・H・シュルツの自律訓練法やアメリカの心理学者、E・ジェイコブソンの漸進的弛緩法のような自己催眠の技法などがこの段階でよく用いられる。また半睡幻想法といって、目を閉じさせ、ゆったりした状態で頭に浮かぶイメージをつぎつぎに述べさせる方法もある。

軽催眠段階の催眠がえられると、症状除去法などが効果的である。夜尿癖の子供などは、この状態の催眠暗示で、夜ねるとき、おしっこが出たくなると、その感じがはっきりわかり、深く眠っていてもパッと目がさめる条件づけをしておき、手洗いに行って、またねどこへもどり、ゆっくり眠れるというイメージを浮かべさせる方法で、数回面接を行なうと夜尿が消失する。また、観念運動を利用して、たとえば手にもったふりこが、質問に対してイエスならば動く、ノーなら動かないと暗示しておき、問いをすすめて心の悩みの原因をさぐり出す方法も利用できる。描画法といって、絵を書かせる方法も、心の奥の願望をあらわにするのによい。

2015年10月7日水曜日

冷戦体制からの脱却

朝鮮の分断への積極参加というコストを払って日本側は韓国市場を手に入れた。そういう積み重ねが多いものですから、アメリカのヘゲモニーのもとでの冷戦を変えようといった発想が生まれにくい。そこに見られる冷戦体質は、日本人が意識しているより以上に、根深いと私は思います。たとえば、こういう現象があります。『朝日新聞』が八七年のワシントンでの米ソ首脳会談の後で、西側の国との比較の世論調査をしました。「東西緊張はこれから緩和すると思うか」という設問に対して、「緩和しない」というのは日本が一番高くて五〇%、アメリカの四五%よりも高い。西ドイツは二八%で一番低かった。「ソ連はいままでより信用できる国になったか」というのについても、「なった」が日本が一番低くて三四%。

これに対して、米国五五%、英国六五%、フランス五四%、西ドイツ七三%です。つまり西ドイツのような最前線国家として冷戦の苦しみを味わってきた国の国民は、この逆境から脱却することがいかに必要であるかということを切実に感じており、冷戦体制からの脱却を可能にする兆しとして、極端にいえばすがるような思いでINF交渉を受け取ったというところがあるのでしょう。ところが、日本は軍事的には明らかに前線国家であり前進基地なのですが、海があるということも影響しているのか、心理的にばその意識がきわめて薄い。冷戦の怖さの自覚が乏しく、むしろ冷戦に安住している。

第二には、日本政府が冷戦の現状を変えるために何もしていないということ自体が理由になっていると思われます。つまり政府が対ソ関係を変えないことが、対ソ関係は変わらないというイメージを国民に植えつけるし、さらには対ソ関係は変えられないというイメージにさえもなる。そこで政府は対ソ関係を変える方向での内圧を受けないですむ。こういう変な循環が起こってしまっていて、ソ連との関係は可塑的なものであるという意識が非常に薄い。このことも、冷戦的なメンタリティを持続させる一因になっています。

第三に、米ソ関係の変化という実態があるのに日本人の対ソ意識が変わらないというギャップは、米国とのかかおりにも根ざしています。たとえば貿易摩擦という背景もあって、米国から高価か兵器を大量に買っています。対潜哨戒機P3Cを一〇〇機ぐらい買うというのですから、世界に冠たるものです。しかし、こうした対潜兵器の増加と高度化は、当然にソ連を刺激する。そこでオホーツク海や日本海で、ソ連はそれに対応した海軍力の強化や活発化の行動をとる。そうすると、「ソ連はヨーロッパでは軍縮だなどといっているけれども、太平洋側では依然として変わらない、だからもっと日本は軍備と日米軍事協力とを強化する必要がある」という論理で、米国からまた高価な兵器を買うことになります。

こうした兵器購入の起こりは、歴史的には対ソ冷戦でしたが、八〇年代には日米経済摩擦の一環として起こっている面がかなり大きい。要するに米国は日本に高額のハイテク兵器を売って、日ソ関係を緩和しにくい状態にする、そうすると日本がまた兵器を買ってくれる米国はそういう枠組みをつくって、日ソ関係を緊張させておけば、日本にいい市場が確保できるわけです。そのペースに日本は乗ってしまい、米国が日本経済を日米同盟のとりこにしている。その半面でレーガンとゴルバチョフは握手をしており、米ソの経済関係はこれから強まっていくでしょう。日本はこれに取り残されており、必ずしも対ソ関係からではなくて、対米関係の反射的効果として対ソ関係が凍結してしまう、という泥沼に入りかかっていると懸念されます。

2015年9月7日月曜日

インターネットが産業活動に与えるインパクト

直接に消費者を相手とする取引だ。しかし、インターネットが産業活動に与えるインパクトでより重要なものは、企業内の情報システム中企業対企業の取引に対するものであると考えられている。『ヒジネスーウイーク』九九年三月八日号の記事は、バイアグラの申請から認可までにかかった時間は従来の新薬の場合の半分であり、それは、ファイザー社が必要データをウェブサイトに準備したからであった。従来であれば必要だった膨大な書類の準備も、必要なデータを探す手間がなくなったために、審査期間を著しく短縮できたのだそうである。

製造業においてネットワークが活用されるいま一つの重要な場面は、部品メーカーや原材料の調達先などの選定と発注だ。現在すでに、多くのメーカーがインターネットを通じて全世界に情報を流してメーカーを選定する方式を導入し、事業を著しく効率化している。

ジェネラルーエレクトリック(General Electric)は、一九九六年、オンラインの部品調達システムを同社の照明部門のGEライティング(GE Lighting)に導入した。これは、入札依頼を世界中の供給業者にインターネット経由で送り、納入業者がインターネット経由で入札を行なうシステムである。

GEライティング社は全世界に四五の工場を保有し、調達担当者は毎日数百件にのぼる機材等の部品調達希望を受ける。このシステムの導入以前は、担当者は二〇〇万枚以上の図面のなかから必要なものを探し出し、入札候補企業に郵送していたという。そのため、部品調達に必要な資料を発送するだけでも七日間かかり、発注先決定まで三週間以上かかっていたという。

システム導入後、部品供給の候補となる企業は、発注作業開始後二時間以内に調達情報を受け、七日以内に入札することが可能となった。このシステムの導入により、人件費が三〇%削減された。また、調達プロセスの所要日数が、従来の二〇日程度から、一〇日程度になった。さらに多数の供給元による入札により、有利な価格での調達が可能になり、原材料調達コストが五~二〇%削減された。

2015年8月7日金曜日

同期生の家庭環境

私は自分に納得のいく仕事をするために外務省を選択した、という安心感は、その後、外務省に入ってからも、そして、その職業を離れたいまでも、私の精神的安定剤として働いてきた。

仮に外交官選択の動機が華やかさを求める若気にあったとしたら、大学の友人が心配してくれたように、おそらく挫折していたのではないかと思う。外務省という職場で経験した仕事の中身こそが、私のような性格の人間でも、二十五年間も外務省で働くことができた最大の魅力なのである。

本来なら、外交官を網羅してその家庭環境を分類してみることができたら、と思う。しかし、そのようなことをするために必要な資料は持ち合わせていない。ここでは、それに代わるものとして、私の同期生(私を含めて一七人)について若干の点を指摘して、「華やかさ」にまつわる一般的イメージの誤解を解いておこう。

同期生の中で、外交官「二世」「三世」であった者(つまり、父親さらには祖父が外交官だった者)は二人いた。しかし、その他の一五人の家庭環境は、それほど目を見開くようなものではなかったと思う。なかには、私が現在ももっとも個人的に尊敬してやまない者のように、両親が居らず、妹の面倒をみるために学問の世界への道を断念して外務省を選択した人もいたし、高校卒業後いったん就職し、その後、東大に入り直して外務省に入ってくるという猛者もいた。

本人の家庭環境を補うものとして、通俗的な刊行物でよく取り上げられるのが、妻になる人の家庭環境である。しかし、私はこういう方面のことにはまったく関心がない。外務省に入ったときに既に結婚していた同期生も数人いて、研修旅行のとき、その中の一人が髭を剃りながら、「こうして顔を郷める図は、とてもワイフには見せられない」といったことが、妙に記憶に残っている程度である。

2015年7月7日火曜日

ペスト菌は肺で活発に増殖

ヒトが保菌ノミに刺されてペスト菌が感染すると、腺ペストという病型のペストになる。この場合、肺にも病巣ができ、ペスト菌は気道の分泌物と一緒に排出される。この分泌物を介してほかのヒトの肺に感染が生じると、今度はペスト菌は肺で活発に増殖するようになり、多量のペスト菌を分泌物と一緒に排出するようになる。この病型は肺ペストといわれ、ヒトの間での大流行は呼吸器伝染病の形を取る。しかしペスト菌が、ヒトの間に安定した感染環をつくれないのは、この菌が肺に常在菌として定着できる条件が欠けているからではないだろうか。コレラはガンジス河三角州とバングラデシュの地域に、地方病として持続的に存在しているものである。しばしば全世界的に大流行を起こす。大流行を起こした場合には成人も発病するが、地方病としてのコレラはもっぱら子供の病気である。

これは、免疫現象がコレラにもあることを明確に示している。ふだんコレラが流行していない地域では、成人してもコレラ菌の感染が成立してしまうが、いつも流行している地域では子供のころにすでに感染し、免疫を獲得していると考えられる。また地方病として持続的に存在しているということは、そこでコレラ菌の感染環が保持されているということになる。その条件として、どのようなものが考えられるだろうか。コレラ菌は海洋性細菌であり、自然界ではヒトだけが宿主になるようである。コレラが典型的な消化器伝染病であることも考慮する必要がある。

2015年6月6日土曜日

縦割り組織化

このように猫の手も借りたいほど忙しい状態の職場であれば、経験の浅い新人であっても、いつしか自然と仕事を割り振られることができた。つまり、業務経験を積むことができたわけだ。それに当時は年功序列が主流で、小さな企業であっても平均的に毎年採用が行われていた。年上の先輩が後輩を教え、さらに翌年にはその後輩が先輩となって新卒を教えるという、教育の流れが断ち切られにくい状況があったのだ。企業にも余裕があったので、OJTも計画的に行われていた。実際、前出の図10を見てみると、バブル崩壊前の90年代前半までは80%程度と、現在の倍近い計画的OJTが行われている。

しかし、失われた10年やリーマン・ショック後の日本社会のように、経済成長率がマイナスに落ち込んだり、1%、2%程度しか経済成長できないような社会においては、仕事量が増えるどころかどんどん減ってしまう。今まで通り仕事をこなしているつもりが、いつのまにか新人に割り振るべき仕事がなくなっていき、社内失業化してしまう。そんな事態が起きているのだ。まずは国内の仕事の減少傾向について見ていこう。日本の企業は現在、仕事を人件費の安い海外にアウトソースする傾向がある。BRICSを中心とした新興国への日本企業による生産拠点の移転は、一層の低賃金・低コスト化を目指してグローバル化しているが、ここにきて、新興国の人材の質も向上し、語学面の障壁を始めとしたインフラが整備されつつあることを受け、人事・総務といった企業の管理部門を海外にアウトソースする動きが活発化している。

既に多国籍企業のなかには、総務はマレーシア、人事はフィリピン、購買は中国といった国際分業体制を構築しているところもある。日本企業の海外への業務アウトソースは、まず、生産性が低く、パターン化・マニュアル化しやすい業務について、低賃金の新興国に移転させるのが一般的である。コールセンターやバックオフィス業務など、事務の仕事を海外にアウトソースした企業は2500社を超える。さらに、従来は付加価値が高く、海外への移転が難しいといわれていた管理部門についても海外でマネージすることで人件費を抑えようとする企業戦略が生まれている。

今までのように工場を移転するのみならず、人事や総務といったホワイトカラーの仕事までもが、海外にアウトソースされているのだ。減っているのは職場の業務量だけに留まらない。国内の需要そのものが減っていくという予測もある。独立行政法人 労働政策研究・研修機構「今後の企業経営と賃金のあり方に関する調査」では、日本国内の今後の需要の見通しについて「減少する」と答えた企業がなんと64%であった。しかも海外からの需要が増える見込みと答えた企業はわずかに99・2%。国内需要が減っている一方で、海外需要を取り込めていない。自社商品・サービスの需要が減少していけば、当然社内の仕事量も減少していくことになるわけだ。

その結果、今までは意識しないで放っておいても解決されていたような、社内失業者を生み出してしまう組織の問題点があらわになってしまう。以下で詳しく見ていこう。縦割りは、セクショナリズム・部局割拠主義とも呼ばれる。組織内の各部署間にある「見えない壁」のことで、本来ならば組織全体の利益を考えて動くべき状況でも、縄張りや派閥にこだわることで互いの情報共有を妨げてしまい、結果的に組織全体の利益が減少してしまう問題だ。「営業部のことに広報部が口を出すな」「うちの部署の売上にならない仕事に手を出すな」どこかで聞いたことのあるセリフではないだろうか。組織の縦割り化が結果として仕事量の不均衡を生み、社内失業へとつながってしまう。以下で図解しながら説明しよう。

2015年5月12日火曜日

手持ちの人脈をフルに活用する

彼らが日本に赴任する幾つかの理由として、「日本の機能を中国などに移すための調査をしに来る」「日本のポテンシャルに見切りをつけ投資の回収を最大限に行なおうとしている」「本社の誰もが難しいと考えている日本法人の建て直しを目論んでいる」「日本に家族や関係の深い友人がいる」などが挙げられる。日本支社を縮小するた・めの調査を目的とした赴任ならばどうしようもないが、日本支社を拡大しようとしているならば、手を組む余地は大いにある。また日本人の配偶者や恋人がいる場合は、損得抜きで日本で働くことを考えている可能性もある。

日本の事業を再成長させようと考え、現在ではあまり人気のない日本を自ら希望して赴任してきた外国人上司は、使いようによっては、あなた自身のキャリアも向上させてくれる。どうせ上司とは、文字通り同じ舟に乗っている訳だから、「死なばもろとも」と忠誠心を発揮して、彼らの目論見に協力するのも悪い選択肢ではない。日産自動車の再生も、そうした外国人ヒ司に協力した日本人スタッフの力によって成功したのではないかと私は考えている。特別任務を帯びている外国人上司との接し方。最後に、「特別任務を帯びている」外国人上司については、どうだろうか。

隠れた意図やミッションが上司にあるときに注意すべきは、その赴任期間である。赴任期間が当初から一年それ未満と予想される場合、その特別任務は調査に留まる可能性が高い。しかし任期不定、または長期化が予測される場合、日本法人の抜本的改革や大幅な縮小(逆に拡大する場合もある)、閉鎖や売却、あるいは日本企業やライバル外資の買収といった荒業のための赴任かもしれない。その特別任務が日本で働く社員にとって好ましいものかどうかは内容による。いずれの場合も、大切なのはその任務の概要をできるだけ早く正確に知ることだ。本人から聞くことができればそれに越したことはないが、任務が重要であればあるほど、現地の社員には知らされないと思ったほうがよい。ならばどうするか。

一番簡単なやり方は、赴任してきた外国人トップに親しい日本法人スタッフ(外国人の場合も日本人の場合もあるだろう)から聞き出すことだ。それが難しければ、本社で親しくしている幹部(こちらも外国人と日本人の両方の可能性がある)に尋ねることである。これがうまく行かない場合は、赴任した外国人トップの行動をフォローして、推論を組み立てるはかない。彼(彼女)が不在がちであれば、社外で特別任務の打ち合わせをしている可能性が高い。社内で行なわないのは、日本法人や支店の社員に秘密にしておきたいことがあるということだ。その秘密が、日本切り捨てか、あるいは拡大か。予測するのは意外と難しい。

以前ならばリストラである可能性が高かったが、日本でもM&Aが認知された今日では、日本企業を買収して、日本でのオペレーションを大幅に拡大するという可能性もある。その特命チームにあなたが入ることができれば、内容について詮索する必要はなくなる。だが、そうでない場合、手持ちの人脈をフルに活用して、社内のライバルよりもできるだけ早く、正確に実態をつかまなければならない。そうした、迅速な対応がその後の転職活動を含めて、行動の選択肢を増やすことになるのだ。

2015年4月7日火曜日

種痘の対象となったウイルス病

痘庸はジェンナーによる種痘の対象となったウイルス病で、アバタという皮膚の後遺症を遺す。そのために皮膚から皮膚への感染が感染環を維持しているように考えられるが、この病気は実際には呼吸器感染症である。ウイルスは呼吸器から感染した後、血液の中に入り、皮膚も含めて全身に分布してさらに増殖する。皮膚の病巣にもウイルスは存在するから、それは感染源になりうる。種痘法の前の予防法に、人痘法というものがあった。

人痘法の術式のひとつは、患者の皮膚の病巣由来のウイルスをほかのヒトの皮膚に接種するものだった。この場合、皮膚に接種されたウイルスが全身に分布して、痘愉になってしまうこともあったのではないかと考えられる。痘愉は、世界的に撲滅宣言が出された伝染病である。このことは、痘愉という病気がどれほど人類を苦しめてきたものであるかを示すとともに、感染環を断ち切ることが比較的容易であったことも示している。その理由の一つは、種痘法の普及や隔離の徹底が効果を発揮したことの他に、痘愉ウイルスでは、ヒトだけが本来の宿主であるからだろう。

この菌もまた海洋性細菌なので、牛の魚介類を食べる習慣のある日本に、腸炎ビブリオによる食中毒が多いことは理解できる。同し細菌性食中毒でも、欧米ではサルモネラ菌によるものが多いことも、食習慣の特徴から説明できる。肉や鶏卵が、サルモネラ前によって汚染されている場合があるからである。腸炎ビブリオが起こす症状は激しい下痢である。これは、やはりある毒素によって生じることが分かっている。では、この毒素が人の腸管に悪い作用をもっているのは偶然なのだろうか。腸炎ビブリオは海洋性だが、海産の魚介類を本来の宿主とする細菌なのだろか。

もしかしたらこの毒素が、そのような宿拉にある種の病原作用をもっているのかもしれない。しかしいずれにしても、このビブリオはコレラ菌とちかってヒトの問に感染環を形成することはない。あまり聞き慣れない名前をもった細菌が胃粘膜に寄生している。一般に、胃は細菌の生息に適した所とは言えない。しかしこの細菌は胃液の酸度を中和できるために、胃に住めるようである。これは極限環境微生物の一種と言える。この菌が胃潰瘍の原囚になっていると言われているが、感染環はどのようなものだろうか。

2015年3月7日土曜日

まるで変わらないお粗末な金の使い方

ところで日本の財政運営の実態が「この期に及んで」とはき捨てたくなるほどお粗末な内容を含んでいることも事実である。財政が政治の金銭的表現であることを考えれば、とりも直さず性懲りもなく既存のシステムに寄生する日本の政治の問題である。より具体的には、お粗末な政治家だちと、彼らを選び出している有権者の問題である。

その最たるものは、公共投資である。景気対策のため、建設会社が消化しきれないこともあるほどにばらまかれているが、日本が将来に向けて必要とする公共的基盤への集中的配分が行われていない。

相も変わらず道路、河川、港湾、農業基盤。要するに建設省、運輸省、農水省の官僚と各種事業にはりついた「族」議員たちの組織、票田、利権を守るための支出である。

日本の社会と企業が大急ぎで進めねばならない構造転換に即していえば、何よりも高齢化と情報化のための基盤投資を急増させる必要がある。このことが言われてすでに十年余。

つまりは日本が米国などから憐みと軽侮の目をもって見られるに至った「九〇年代」が始まる前から、各方面で言われてきた。年々の予算編成の中でも「目玉商品づくり」に、この高齢化と情報化が言われてきた。

しかし、日本の都市も農村も、高齢者が安心して歩けるような姿に変わってきた形跡はない。介護施設といえば、相変わらず「姥捨て山」を思わせる集合住宅にすぎない。介護のマンパワーの貧弱さとも相まって、日本の介護システムは、全体として老人の活力を奪うものとしかいいようがない。

情報化投資のお粗末さもまた、目を覆うばかりである。端的にいえば、日本の国上のすみずみまでが、たとえば十円玉一つぐらいで完全につながり、米国のように小規模の情報ビジネスが雲霞のごとく立ち上かってくるような通信システムを確立するための光ファイバー投資などを急ぐべきだろう。それはもちろん、海外ともつながることのできるものでなければならない。

2015年2月7日土曜日

世界一の賃金がもたらすもの

ドルで測った賃金の大幅上昇という現象は、実際の日本経済にかなり大きな影響を及ぼしている。それは次のような点だ。

まず、日本企業の海外進出が本格化している。日本企業にとっては、日本で生産するということは、世界一の賃金を払った上で他の国々と競争しなければならなくなったことを意味する。逆に、他の国々の労働力が安く使えるようになった。これまでも安い労働力を求めて海外に進出するということはあった。しかし、その場合の進出先はもっぱら途上国であった。

円高以後は先進国に進出しても日本より安く労働力を調達できるようになったのである。円高以後、日本企業がこぞって海外に生産拠点を移し始めた大きな理由はこの点にある。

外国人労働力問題が重要な問題になってきたのも高賃金が原因だ。海外、とくに東南アジア諸国からの労働力の流人は著しいものがある。ドルでみた所得と我々の生活実感との乖離が広がったことも重要だ。このように、ドル建てでみた賃金が上昇したことは、雇用面だけでなく経済的にも大きな変化の波を起こしているのである。

国境で守られている労働市場は最も国際的影響が及びにく市場である。しかしこれは、労働の需要者である企業、供給者である労働者の範囲がともに国境内に限定されているときにのみ成り立つ話である。この条件は円高によって崩れ、日本の労働市場はいやおうなしに国際的次元での構造調整の荒波の中に投げ込まれることになった。

2015年1月10日土曜日

結婚の習俗

内部の装飾が奇抜なのが、インド西部、パキスタンに近いグジャラート州力ッツチ地方に住む民族集団ラバリの家だ。白っぽい土壁に草葺きかスレート屋根という外見はそう印象的なものではないが、なかに入ると部屋の壁一面に幾何学的な浮彫り模様が施され、随所に色ガラスや む小さな鏡が埋め込まれている。

ラバリの女性はサリーではなく、腹掛けのように背中の開いた上衣と、ロングスカートに、頭から足元まで垂らした布で背中を隠す独特の衣装を身に着けるが、とくに、たくさんの小さな鏡を色とりどりの刺繍糸で縫い止めるミラーワークという技法を使った子供服や成人女性のハレの衣装は、それは華やかなものだ。このミラーワークが住まいにも使われているわけで、きらびやかな内壁を造るのはもちろん女性の仕事となっている。

ヒトは生まれ、第二次性徴期を経て生殖し、やがて死ぬ。生物としてはそれだけのことだが、人間社会はその自然の営みをさまざまに解釈し、儀礼をおこなう、という文化を育んできた。二○世紀はじめにフランスの人類学者ヴァンージェネップは、誕生、成年、結婚、死といった人生の節目にともなう儀礼を、通過儀礼という用語で説明した。通過儀礼の「通過」とは、人間がある社会的身分から次の身分へと段階的に移行することをいう。

通過儀礼は基本的に、個人は「死」という形式を経て、新たに生まれ変わるという、世界の習俗に広くみられる概念に注目するものである。成年式や宗教集団への加入式など、とくにイニシエーションとよばれる種類の儀礼では、ある時間ないし期間、当事者を隔離して試練が課されたり、死と再生を象徴する儀式がおこなわれたり、新しい服飾や名前が与えられるなど、多くの社会でかなりの共通性が見られると、一般的にはいわれる。

もっとも日本では、この種の儀礼は昔からどうも印象が薄い。七五三、十三参りや元服式などの成年式が日本のイニシエーション儀礼の代表だが、着物や髪形を変え、とくに成年式では禅や腰巻き、女子なら鉄漿(お歯黒)を初めてもちいるというような装いに関する習俗が中心で、割礼その他の身体的な加工や厳しい試練が儀礼に組み込まれることはあまり一般的ではなかった。