2012年5月20日日曜日

弱気に傾きすぎた商品市場

米国発の金融危機が昨秋に世界を駆け巡ってからは、内外の商品市場では値下がりや減産の話ばかりが目立つ。石油輸出国機構(OPEC)の大幅減産をはじめ、素材から自動車やエレクトロニクス関連の最終製品まで軒並み減産ラッシュとなっている。
 
昨年末の米国のクリスマス商戦がすこぶる振るわなかっただけに、日本を代表する輸出産業の販売低迷と業績の下方修正もうなずける。東アジアから米国に向かう外航コンテナ船が運ぶ貨物量はクリスマス商戦を控えた10月ごろが最も多くなる。だが昨年10月の輸送実績は、リーマンショック前で、どちらかといえば閑散期の8月実績より4.5%少ない。

まだ12月までの数字が出ていないが、昨年の月間輸送量のピークが8月だったのはほぼ確実だ。ベテランの海運業界関係者も目を丸くするような珍事となった。

内需型商品に目を向けてみても、セメントは昨年4月に10%の値上げが実現したはずだったが、大手メーカーのなかには販売不振を背景に2009年3月期が7期ぶり最終赤字の見通しもある。まさに未曽有(みぞう)の事態なのだろう。

こうした事例を挙げていくと、今年の内外の商品価格の動向にも悲観的な見方もしてみたくなる。ただ足元の商品価格には実際の需要と供給のバランス以上に下げているものもある。

昨夏の原油相場1バレル147ドルの最高値を付けたころに投資ファンド関係者が「この相場は実際の需給や先行きの需要を反映したもの」と強弁した。これが今なお正しい認識だとみる関係者はほとんどいないだろう。

逆に今の商品価格が需要と供給の現状や先行きなどファンダメンタルズ(基礎的条件)を無視する形で過度に売り込まれているものも多いようにみえる。年明け直後に原油や穀物の相場が反発する場面もあったが、今年は次第に需給バランスと価格のぶれが修正されていく形になりそうだ。弱気に傾きすぎた商品市場は、牛歩かもしれないが悲観論が薄れる形で上昇に向かう可能性を捨ててはいけないだろう。

2012年5月17日木曜日

オバマ政権下で魚は値上がり?

米国で20日、オバマ大統領が就任した。未曽有の経済危機の克服に向けて、世界中の期待を一身に集めての登場となった。水産物市場では、同大統領の就任は、長期的には魚価の上昇要因になるといった見方も出ている。

昨年12月、オバマ氏は米海洋大気局(NOAA)の局長に環境科学者でオレゴン州立大学のジェーン・ルブチェンコ教授を指名した。漁業などを管轄する米海洋漁業局(NMFS)もNOAAに属する。
ルブチェンコ氏は海洋生物学などを専攻し、温暖化防止に熱心とされる。漁業資源の保護に対しても積極的な姿勢を見せているという。こうした人選からも、オバマ政権がブッシュ前政権に比べて産業重視から環境重視の姿勢に傾くとの見方が支配的だ。

もともと民主党政権は共和党政権より環境政策が重視される傾向が強い。水産物関係でも影響が指摘される。一例として、ベーリング海が主漁場で、すり身や切り身になる米国産スケソウダラの漁獲枠が挙げられる。漁獲枠制度が導入された後の平均数量は共和党政権で緩和し、民主党政権では厳格化するという数値データが出ている。

もちろん、漁獲枠は科学者委員会の勧告に基づいて決定され、政府が恣意(しい)的に左右するのは難しい。しかし一定の影響があると指摘する関係者は少なくない。「来年の漁獲枠は大幅に増加すると現時点でいわれているが、今年末の結果がどうなるのか情勢をじっくり見守りたい」(全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会)との声も上がる。

オバマ大統領の就任で、環境団体や自然保護団体などの運動は活気づいているという。「以前から反対運動の強いクジラやマグロに加えて、最近強まっているスケソウなどの一般魚種についても攻勢がかかるのでは」(大手水産会社)とされる。

資源保護の動きは環境団体などに限らない。ロイター通信によると、ジェームズ・グリーンウッド元議員ら、環境・経済の専門家や科学者からなるワーキング・グループは昨年11月、水産資源の乱獲防止に向けて、オバマ政権が取るべき方向性などを示した報告書を発表した。その中で、オバマ大統領は連邦漁業管理計画を2012年までに評価し、乱獲を防ぐ公正な漁業管理制度の適用を大幅に拡大すべきといった提案をしているという。

経済危機で世界の魚食拡大は一時的に頭打ちになっている。しかし人口増加や健康志向の高まりを受けて、再び増加に転じるのは間違いない。漁業が資源の持続性や環境を重視する姿勢に転換しなければ、必要最低限の水産物すら供給できなくなることは多くの専門化が指摘している。

大手水産卸会社の幹部は「資源管理の流れは変えようがない。オバマ政権ではその流れが加速する可能性が高い。長期的には魚価の上昇要因になるだろう」と指摘している。

2012年5月9日水曜日

自動車コスト節約に効果、カーシェアリング快走

特に不満や不都合なく、自動車にかかる経費が大きく削減できた。自動車を複数の会員で共同利用するカーシェアリングの利用が広がり始めた。交通エコロジー・モビリティ財団が1月に実施した調査によると、国内のカーシェアの車両数は563台で前年同期比10%増、会員数は6396人で同97%増えた。これまで多かったマンション住人同士のカーシェアなど生活者に加えて、自動車がビジネスに必要な事業者からも注目を集めている。

カーシェアは、会員制の短時間レンタカー。携帯電話やインターネット経由で予約した上で、自宅やオフィスに近いステーション(貸し渡し場所)から乗り込む。レンタカーのような店頭での手続きも不要で、車両が空いていれば24時間利用できる。カーシェア各社のサービスは最短30分から利用でき、15分単位で課金される仕組みが多い。

料金体系は契約時の登録料、毎月の基本料、走行距離と利用時間に応じた従量制料金の組み合わせが一般的。大手のオリックス自動車が提示する法人向け料金の一例だと、会員登録50人で小型車を利用する場合、初期費用が8万3800円、月額基本料が3980円。これに、従量料金として15分当たり310円、走行1キロメートル当たり15円が加算される。

マツダレンタカーの場合、入会時に会員1人当たり2100円、月額基本料が1050円、15分ごとの利用料が315円など複数の体系がある。同社の試算では、駐車場代が月2万円の場合、利用時間が月66時間以内なら、自家用車の所有に比べて経費が節約できる計算になる。カーシェアが適するのは、乗車1回当たりの利用が数時間以内と短く、時間帯が一定しない場合。オリックス自動車のサービスを導入した名古屋の住宅販売会社は、1人当たり車両経費が年間77万円から36万円に減った。

カーシェアが経費節約につながるのは、車両購入費用、駐車場代、ガソリン代、税金・保険料などのコストを複数の利用者で分担するため。今のところカーシェア事業各社は全国一律の料金体系だが、実は、駐車場代が利用者のコスト削減効果に大きく影響する。

ガソリン代、税金、保険料、車両購入費は、全国どこでも大きな違いはないが、ステーションとなる駐車場の月間賃料は、東京都心と地方都市、ビジネス街と住宅街など、立地によって大きく違ってくるからだ。料金体系が全国一律なら、固定費である駐車場代が高い地域では、利用者のコスト削減効果が大きいが、逆に事業者の損益分岐点は上昇する。

三井物産の全額出資子会社で、1月22日から東京・渋谷区内でサービスを始めたカーシェアリング・ジャパン(東京・渋谷)の鈴木大山副社長は「ごく近い将来、カーシェアはコンビニのように一般的になる」と予想する。ただ、コンビニとの違いは、まだ、ステーション適地が明確になっていない点だ。

駅のそばであれば、電車を降りてすぐにカーシェアを利用でき利便性は高いが、駐車場の賃貸料も高額で利用料金が割高になりかねない。駅から遠くても居住者の密度が高ければ、採算性の高いステーションが実現する可能性もある。

今後、サービス提供地域が拡大するにつれて、事業者の間でステーション適地の奪い合いになるのは間違いない。「自動車を使う」というサービス自体には品質に大きな差がないので、価格競争力は重要。そのとき、駐車場代をどのように利用料金に反映させるかが、各社の料金設定のポイントになりそうだ。