2015年2月7日土曜日

世界一の賃金がもたらすもの

ドルで測った賃金の大幅上昇という現象は、実際の日本経済にかなり大きな影響を及ぼしている。それは次のような点だ。

まず、日本企業の海外進出が本格化している。日本企業にとっては、日本で生産するということは、世界一の賃金を払った上で他の国々と競争しなければならなくなったことを意味する。逆に、他の国々の労働力が安く使えるようになった。これまでも安い労働力を求めて海外に進出するということはあった。しかし、その場合の進出先はもっぱら途上国であった。

円高以後は先進国に進出しても日本より安く労働力を調達できるようになったのである。円高以後、日本企業がこぞって海外に生産拠点を移し始めた大きな理由はこの点にある。

外国人労働力問題が重要な問題になってきたのも高賃金が原因だ。海外、とくに東南アジア諸国からの労働力の流人は著しいものがある。ドルでみた所得と我々の生活実感との乖離が広がったことも重要だ。このように、ドル建てでみた賃金が上昇したことは、雇用面だけでなく経済的にも大きな変化の波を起こしているのである。

国境で守られている労働市場は最も国際的影響が及びにく市場である。しかしこれは、労働の需要者である企業、供給者である労働者の範囲がともに国境内に限定されているときにのみ成り立つ話である。この条件は円高によって崩れ、日本の労働市場はいやおうなしに国際的次元での構造調整の荒波の中に投げ込まれることになった。