2014年6月5日木曜日

関係者の制限

信託は、ただ単に信託契約を取り交わすなり、遺言で信託を指示しておいただけではだめで、それらの契約なり遺言にもとづいて信託する財産を受託者に引き渡すことが必要です。これが信託と代理との違うところです。同じ財産の管理を頼んでも、代理ですと財産をその代理人に引き渡すことはせず、ただ一定の範囲内のことを持ち主に代わって行うだけですが、信託はある目的が決まっており、受託者はその目的にそって運用するため、いったん財産を自分のものとするのです。

このため受託者は、もとから自分の持っていた財産(これを固有財産といいます)と信託財産を一緒にすることは許されず、自分の財産と区別して管理、運用しなければなりません。AとBといった二人の人から信託を受けたときも同じです。これを信託財産の分別管理といいます。そして信託財産の区別をはっきりさせるために、登記とか登録とかができるものは、これを表示するのが原則です。

たとえば、土地建物などの不動産には登記をし、また株券や社債などの有価証券も発行会社に備え付けの株主名簿や社債原簿にその旨の記入をすることが必要です。このような信託財産の表示がしてないと、信託に関係のない第三者から何か文句が出たときに、これが信託財産であるといって争うことができません。

この表示のやり方は信託法で定められたものに従うことになっていまナが、金銭その他の動産で表示について適当の方法がないものは表示の必要がありません。なお、有価証券の信託で、その出し入れが頻繁な場合には、委託者と受託者との話し合いで表示を省くことがあります。ただ、信託表示をしない場合でも、信託財産か、受託者の固有財産か、それぞれの計算がはっきりわかるようにしなければなりません。

信託の関係者は、これまで述べたように委託者と受託者と受益者ですが、未成年者、禁治産者(精神障害のため自分の行動の結果について判断する能力のないものなど)、準禁治産者、破産者は受託者となることはできません。それは、これらの人々は財産を運用するのにまだ一人前でないとか、そのほか適当でない面があるからです。委託者には一般的な行為能力があればよく、そのほかには別に制限はありません。

なお遺言信託では、遺言をするときに遺言能力があればよいことになります。受益者の場合は、受益権発生のときに権利能力があればよいので、これから生まれてくる子供といったように、今いない人でも指定することができます。そして委託者が自分を受益者としてもいいわけで、近ごろは自分で財産の運用を頼んで自分がそこからあがる利益を受け取る、といった型の信託がほとんどです。