2012年7月18日水曜日

償いと更正の間。厳罰化で増える無期囚。

短く刈り込んだ白い髪。作業着姿の男性(64)が桐(きり)だんすを組み立てる手には、深いしわが刻まれている。

この手で、行きずりの女性の首を絞めた。現金を奪い、偽名で身を潜めたが、全国に指名手配され捕まった。強盗殺人罪で無期懲役。高いコンクリート塀に囲まれ生きて29年がたつ。

「はっきり言って、ここでは死にたくないですよ」。濃尾平野の北端に建つ岐阜刑務所。面会した記者に話す男性の声は、早口で震えた。「だけど、娑婆(しゃば)で仕事したいと思う心は、体力が衰えた55歳で止まりました」。家族はなく、体も追いつかず、1人で生活する自信を失ったという。

厳罰化を背景に、受刑者の収容期間は長期化し、特に無期囚の仮釈放は難しい。05年の刑法改正で、有期刑の上限が20年から30年に延びた。無期刑の自分が、30年以内に仮釈放される可能性は消えたと思っている。

刑務作業を繰り返す日常。作業のない休日は写経をして過ごす。「何も考えないで済ましとくんですよ。うん、考えたって、しょうがねえんだもん」。自分に言い聞かす。「ここで朽ち果てるしか、ないんですよ」。

岐阜刑務所は、殺人などの重大事件で服役2度目以上の受刑者が主に入る施設。3月末現在で、受刑者987人のうち21~83歳の無期受刑者が176人を占める。

「そりゃあ、出たいと思うことはありますよ。けど、わがままだと自分に言い聞かせてます」。別の無期刑の男性(48)は、強盗致死罪で服役12年目。仮釈放は想像もできない。

強盗事件で別の刑務所を出て1カ月もしないうちに、再び金目当てで民家に押し入り、殺すつもりはなかったが相手の命を奪ってしまった。生きていることがつらくなり、富士山のふもとの樹海をさまよった。大量の精神安定剤を飲んだが、死ねなかった。首をくくる踏ん切りがつかず、懸命に樹海からはい出した。

今、灰色の塀の中から外につながる道は、さらに険しい。「60代で入ってくる人がいっぱいいる。何人が生きて社会に出られるか。そういう(仮釈放の)話には触れないようにしている」。

けんかでもして懲罰を受ければ、仮釈放は一層遠ざかる。「波風立てず、慎重に、慎重に暮らすんです」。会話が許される休憩時間も、気の合う受刑者同士がひっそりと集まる。

32年間を岐阜刑務所で過ごした男性が4月、職員に頭を下げ、門を出て行った。ここでは7年ぶりの無期受刑者の仮釈放だった。

長期の受刑者は精神が不安定になる。睡眠剤の服用が増え、体を壊す。家族に縁を切られ、面会のない人間も多い。そんな中で、少しでも希望を持たせることが大事だと、玉田一博刑務官(49)は感じている。

1人の仮釈放で、所内の「空気」が一変したという皮膚感覚がある。普段口をきかない受刑者が話しかけてきた。「どんな人間でも、出たいと思っている。光が見えて良かったです」。30年近く現場にいる刑務官が、少し表情を緩めた。