2015年8月7日金曜日

同期生の家庭環境

私は自分に納得のいく仕事をするために外務省を選択した、という安心感は、その後、外務省に入ってからも、そして、その職業を離れたいまでも、私の精神的安定剤として働いてきた。

仮に外交官選択の動機が華やかさを求める若気にあったとしたら、大学の友人が心配してくれたように、おそらく挫折していたのではないかと思う。外務省という職場で経験した仕事の中身こそが、私のような性格の人間でも、二十五年間も外務省で働くことができた最大の魅力なのである。

本来なら、外交官を網羅してその家庭環境を分類してみることができたら、と思う。しかし、そのようなことをするために必要な資料は持ち合わせていない。ここでは、それに代わるものとして、私の同期生(私を含めて一七人)について若干の点を指摘して、「華やかさ」にまつわる一般的イメージの誤解を解いておこう。

同期生の中で、外交官「二世」「三世」であった者(つまり、父親さらには祖父が外交官だった者)は二人いた。しかし、その他の一五人の家庭環境は、それほど目を見開くようなものではなかったと思う。なかには、私が現在ももっとも個人的に尊敬してやまない者のように、両親が居らず、妹の面倒をみるために学問の世界への道を断念して外務省を選択した人もいたし、高校卒業後いったん就職し、その後、東大に入り直して外務省に入ってくるという猛者もいた。

本人の家庭環境を補うものとして、通俗的な刊行物でよく取り上げられるのが、妻になる人の家庭環境である。しかし、私はこういう方面のことにはまったく関心がない。外務省に入ったときに既に結婚していた同期生も数人いて、研修旅行のとき、その中の一人が髭を剃りながら、「こうして顔を郷める図は、とてもワイフには見せられない」といったことが、妙に記憶に残っている程度である。

2015年7月7日火曜日

ペスト菌は肺で活発に増殖

ヒトが保菌ノミに刺されてペスト菌が感染すると、腺ペストという病型のペストになる。この場合、肺にも病巣ができ、ペスト菌は気道の分泌物と一緒に排出される。この分泌物を介してほかのヒトの肺に感染が生じると、今度はペスト菌は肺で活発に増殖するようになり、多量のペスト菌を分泌物と一緒に排出するようになる。この病型は肺ペストといわれ、ヒトの間での大流行は呼吸器伝染病の形を取る。しかしペスト菌が、ヒトの間に安定した感染環をつくれないのは、この菌が肺に常在菌として定着できる条件が欠けているからではないだろうか。コレラはガンジス河三角州とバングラデシュの地域に、地方病として持続的に存在しているものである。しばしば全世界的に大流行を起こす。大流行を起こした場合には成人も発病するが、地方病としてのコレラはもっぱら子供の病気である。

これは、免疫現象がコレラにもあることを明確に示している。ふだんコレラが流行していない地域では、成人してもコレラ菌の感染が成立してしまうが、いつも流行している地域では子供のころにすでに感染し、免疫を獲得していると考えられる。また地方病として持続的に存在しているということは、そこでコレラ菌の感染環が保持されているということになる。その条件として、どのようなものが考えられるだろうか。コレラ菌は海洋性細菌であり、自然界ではヒトだけが宿主になるようである。コレラが典型的な消化器伝染病であることも考慮する必要がある。