2015年6月6日土曜日

縦割り組織化

このように猫の手も借りたいほど忙しい状態の職場であれば、経験の浅い新人であっても、いつしか自然と仕事を割り振られることができた。つまり、業務経験を積むことができたわけだ。それに当時は年功序列が主流で、小さな企業であっても平均的に毎年採用が行われていた。年上の先輩が後輩を教え、さらに翌年にはその後輩が先輩となって新卒を教えるという、教育の流れが断ち切られにくい状況があったのだ。企業にも余裕があったので、OJTも計画的に行われていた。実際、前出の図10を見てみると、バブル崩壊前の90年代前半までは80%程度と、現在の倍近い計画的OJTが行われている。

しかし、失われた10年やリーマン・ショック後の日本社会のように、経済成長率がマイナスに落ち込んだり、1%、2%程度しか経済成長できないような社会においては、仕事量が増えるどころかどんどん減ってしまう。今まで通り仕事をこなしているつもりが、いつのまにか新人に割り振るべき仕事がなくなっていき、社内失業化してしまう。そんな事態が起きているのだ。まずは国内の仕事の減少傾向について見ていこう。日本の企業は現在、仕事を人件費の安い海外にアウトソースする傾向がある。BRICSを中心とした新興国への日本企業による生産拠点の移転は、一層の低賃金・低コスト化を目指してグローバル化しているが、ここにきて、新興国の人材の質も向上し、語学面の障壁を始めとしたインフラが整備されつつあることを受け、人事・総務といった企業の管理部門を海外にアウトソースする動きが活発化している。

既に多国籍企業のなかには、総務はマレーシア、人事はフィリピン、購買は中国といった国際分業体制を構築しているところもある。日本企業の海外への業務アウトソースは、まず、生産性が低く、パターン化・マニュアル化しやすい業務について、低賃金の新興国に移転させるのが一般的である。コールセンターやバックオフィス業務など、事務の仕事を海外にアウトソースした企業は2500社を超える。さらに、従来は付加価値が高く、海外への移転が難しいといわれていた管理部門についても海外でマネージすることで人件費を抑えようとする企業戦略が生まれている。

今までのように工場を移転するのみならず、人事や総務といったホワイトカラーの仕事までもが、海外にアウトソースされているのだ。減っているのは職場の業務量だけに留まらない。国内の需要そのものが減っていくという予測もある。独立行政法人 労働政策研究・研修機構「今後の企業経営と賃金のあり方に関する調査」では、日本国内の今後の需要の見通しについて「減少する」と答えた企業がなんと64%であった。しかも海外からの需要が増える見込みと答えた企業はわずかに99・2%。国内需要が減っている一方で、海外需要を取り込めていない。自社商品・サービスの需要が減少していけば、当然社内の仕事量も減少していくことになるわけだ。

その結果、今までは意識しないで放っておいても解決されていたような、社内失業者を生み出してしまう組織の問題点があらわになってしまう。以下で詳しく見ていこう。縦割りは、セクショナリズム・部局割拠主義とも呼ばれる。組織内の各部署間にある「見えない壁」のことで、本来ならば組織全体の利益を考えて動くべき状況でも、縄張りや派閥にこだわることで互いの情報共有を妨げてしまい、結果的に組織全体の利益が減少してしまう問題だ。「営業部のことに広報部が口を出すな」「うちの部署の売上にならない仕事に手を出すな」どこかで聞いたことのあるセリフではないだろうか。組織の縦割り化が結果として仕事量の不均衡を生み、社内失業へとつながってしまう。以下で図解しながら説明しよう。

2015年5月12日火曜日

手持ちの人脈をフルに活用する

彼らが日本に赴任する幾つかの理由として、「日本の機能を中国などに移すための調査をしに来る」「日本のポテンシャルに見切りをつけ投資の回収を最大限に行なおうとしている」「本社の誰もが難しいと考えている日本法人の建て直しを目論んでいる」「日本に家族や関係の深い友人がいる」などが挙げられる。日本支社を縮小するた・めの調査を目的とした赴任ならばどうしようもないが、日本支社を拡大しようとしているならば、手を組む余地は大いにある。また日本人の配偶者や恋人がいる場合は、損得抜きで日本で働くことを考えている可能性もある。

日本の事業を再成長させようと考え、現在ではあまり人気のない日本を自ら希望して赴任してきた外国人上司は、使いようによっては、あなた自身のキャリアも向上させてくれる。どうせ上司とは、文字通り同じ舟に乗っている訳だから、「死なばもろとも」と忠誠心を発揮して、彼らの目論見に協力するのも悪い選択肢ではない。日産自動車の再生も、そうした外国人ヒ司に協力した日本人スタッフの力によって成功したのではないかと私は考えている。特別任務を帯びている外国人上司との接し方。最後に、「特別任務を帯びている」外国人上司については、どうだろうか。

隠れた意図やミッションが上司にあるときに注意すべきは、その赴任期間である。赴任期間が当初から一年それ未満と予想される場合、その特別任務は調査に留まる可能性が高い。しかし任期不定、または長期化が予測される場合、日本法人の抜本的改革や大幅な縮小(逆に拡大する場合もある)、閉鎖や売却、あるいは日本企業やライバル外資の買収といった荒業のための赴任かもしれない。その特別任務が日本で働く社員にとって好ましいものかどうかは内容による。いずれの場合も、大切なのはその任務の概要をできるだけ早く正確に知ることだ。本人から聞くことができればそれに越したことはないが、任務が重要であればあるほど、現地の社員には知らされないと思ったほうがよい。ならばどうするか。

一番簡単なやり方は、赴任してきた外国人トップに親しい日本法人スタッフ(外国人の場合も日本人の場合もあるだろう)から聞き出すことだ。それが難しければ、本社で親しくしている幹部(こちらも外国人と日本人の両方の可能性がある)に尋ねることである。これがうまく行かない場合は、赴任した外国人トップの行動をフォローして、推論を組み立てるはかない。彼(彼女)が不在がちであれば、社外で特別任務の打ち合わせをしている可能性が高い。社内で行なわないのは、日本法人や支店の社員に秘密にしておきたいことがあるということだ。その秘密が、日本切り捨てか、あるいは拡大か。予測するのは意外と難しい。

以前ならばリストラである可能性が高かったが、日本でもM&Aが認知された今日では、日本企業を買収して、日本でのオペレーションを大幅に拡大するという可能性もある。その特命チームにあなたが入ることができれば、内容について詮索する必要はなくなる。だが、そうでない場合、手持ちの人脈をフルに活用して、社内のライバルよりもできるだけ早く、正確に実態をつかまなければならない。そうした、迅速な対応がその後の転職活動を含めて、行動の選択肢を増やすことになるのだ。