2016年4月7日木曜日

ヴェトナム株

日本にいても証券会社を通じてヴェトナム株は購入できる。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)に次い分、VITAS(ヴェトナム、インドネシア、トルコ、アルゼンチン)が経済発展の有望国として注目されてきている。主要な証券会社ではブラジル株、ロシア株、中国株、インド株等の販売を行なっているが、最近ではその中にヴェトナム株も含まれるようになってきた。しかし、インターネット等を利用して個人的に株の売買をしたい人は、一度は直接ヴェトナムに出かけていって口座を開設する必要がある。団塊の世代に多いのだが、青春時代のどこかでヴェトナム戦争に出会っていて、いつの日か一度は自分の目でヴェトナムを見てみたいと思っていた日本人は多い。

そこで、退職して時間も出来たので、観光旅行を兼ねて、訪問したかったヴェトナムに行って株式購入のための口座を証券会社で開設しようと決め、ホーチミン市やハノイにやってくるのである。団塊世代の退職時と重なって、○七年の四月以降に、口座開設のための旅行者が急増している。それに伴って、日本だけでなく、シンガポール、米国、英国、フランス等の投資会社がホーチミン市に支店を開設するケースも増えてきた。ヴェトナム企業を本気で育成する気運が盛り上がってきたのである。日本からもワールド・リンク・ジャパンなどの投資会社だけでなく、ドリーム・インキュペーター・ヴェトナムなどのような戦略的コンサルティングの会社が現地で営業を開始している。

資本主義の制度が整備されるにつれ、顕在化した問題に人材不足がある。二〇一〇年までに工業化を起動させるには理工系の優秀な人材が即座に大量に必要になる。資本主義的な株式会社を運営するには、近代経済学、経営学、財政学などの基本的知識を身につけた文系の人材も不可欠である。さらにグローバル化した時代の会社運営には、国際経済、国際金融、国際私法に精通したスタッフを養成する必要もある。またコミュニケーション分野では高度な専門知識を持つIT技術者も欠かせない。

2016年3月7日月曜日

訴訟による解決の必要性

自民党の司法制度調査会報告書に「平和的な解決」というマジックーワードがありましたが、考えてみれば、「訴訟による解決は平和的でなく、それ以外の解決の方が平和的だ」というのは、本来は話が逆です。

「二割司法」のところでも説明したように、今の日本では、法や裁判によるのではなく、暴力や実力(政治力を含む)による解決を許してしまっていることが問題なのです。

もともと現代の裁判制度は、暴力や実力によらないで、知性と理性と説得によって平和的に紛争を解決するための道具です。自力救済が禁止され、むき出しの力での権利実現を許さないのも、あくまでも平和的に、訴訟制度を使って解決しなければならないことにしたからです。

本来平和的な訴訟制度を使わないで、もっと別の平和的な手段を使えというのは、「まともでない人びと」には通用しません。本当の強者は、法による強制力に頼らないで自分で人を動かすことができるので、元来、あまり法や裁判による保護だとか権利の実現を必要とはしないものなのです。

場合によっては政治力を動員できますし、直接的に暴力を使うこともあり得るわけで、それで本来の正義が曲げられてしまうわけです。ただ、自力救済が禁止されているので、しぶしぶ裁判という面倒な方法を使います。

また、強者にとっては、時に裁判制度が、外部の攻撃から守る堅い鎧の役割を果たしてくれますから、まんざらでもないと思っているのでしょう。本当に困った問題です。

2016年2月6日土曜日

金に対する投機は何度もドルの弱体化を反映して勃発した

金に対する投機は何度もドルの弱体化を反映して勃発したし、マルク買いのたび重なる大波は巨大なものであった。また、昭和四六年八月のニクソンーシ’ツタ後の東京市場での円切上げをみこんだドル売り・円買い圧力も二週間で三七億ドルの日本銀行の介入買いと、まるで怒濤のような激しさであった。しかし、ひとたびそれらの通貨投機は、投機筋が満足すればひとりでに鎮静化した。

もちろん、これらの国際通貨危機のトンネルを通りぬけるごとに、ドルの価値は低下はしていったのであるが、世界のどこにでもエネルギー危機・戦乱・政治的混乱などが生起するたびに、人々はドルを買い、米国を信頼し、アメリカ大統領の決断に、いわず語らず頼っているのである。

米国の世界一強力な軍事力、やせてもかれてもなおかつ世界最大の国民所得、豊富な国内資源、自由な政治体制、これらのいわゆるアメリカの力に世界中の人々は深く信頼をおいているのである。

もちろん、たとえばマルクは対ドル四対一から、現在のI・六~一・七対一までの上昇となったし、円はIドル三六〇円から一三七円までの値上り(つまり、ドルの減価)を示しているといってみたところで、現実に起きている事態はどういうことか。

第二次大戦後の圧倒的な経済力・軍事力・自己完結的資源賦与を背景に、世界政治を指導し、ドルは依然として世界の隅々にまで浸透し、世界中の国際的価格表示機能はすべてドルに基準をおいている事実を、世界は少なくとも自由世界のあらゆる人々は直視しなければなるまい。

2016年1月9日土曜日

サニーペイルの企業的行革

米国の郡や市町村が独自の政策やプログラムができるのは、自治権がもともと強いという歴史的な事情がある。各州が憲法を持ち、多くの郡や市町村に憲章がある。独自の徴税権があり、消費税は地方税だ。連邦政府から流れてくるカネは地方政府の財源の一五%を占めるにすぎない。

そうした立場を生かして、全国州議会述盟は、ゴア委員会に対して、いまだに残っている細分化された補助金のうち、職業訓練、教育、水質保全、車他産業の民心転換、環境保全、交通安全にかかわる種類の補助金を六つの分野にひとくくりした「柔軟な交付金」にするよう要望を提出した。この要望はゴア委員会の報告に採用された。

もちろん、納税者や有権者の権利意識も強いので、市町村は市民を意識した合理的で効率的な行政を迫られるという事情もあり、行政改革にでは連邦政府より先駆的な役割を果たしてい。

ゴア委員会は、郡や市町村の民間企業のような経営にも着目していた。米国というお国柄が現れている。真っ先に注目したのは、カリフォルニア州の先端技術証業の集積地シリコンーバレーにある人口十二万人のサニトペイル市である。前例を認めず、各課、各部の予算をゼロペースから見直すことから始める。税収をにらみながら、以前からの社内も年度ごとに見直して、各課の仕事の目標を決めてトく。外注を増やしたり、ボランティアの協力を求めるなど人件費の削減にも努める。

たとえば、費用対効果に疑問のある道路計画は削めて、既存の道路の補修に力をいれる。あるいは、道路を延長する際、距離や強度などの目標を定めて、その方法は建設業者に任せた競争入札にかける。

そして工事が予算より安い価格で成立し、かつ質などの目標を達成していれば、差額のなかから職員にはボーナスが出るし、職員査定のポイントも上がるという仕掛けだ。企業のように顧客、市民を優先する。リクリエーション課は、アンケート調査や市民からの手紙などを参考にしながら、カヌー、釣り、キャンプなどのリクリエーションを実施する。

2015年12月7日月曜日

進む中国の国際化

その中国では、ドイツ、フランス、アメリカ、日本の各国のブランドで乗用車を組み立てており、一部の軽四輪バンタイプのタクシーを除けば、乗用車のほとんどは外国製である。ソウルを走る乗用車の大部分が韓国製であるのとは、対照的な風景である。長江上流の雅碧江では、一九九九年末に中国最大の水力発電所三三〇万が完成したが、この設計から施工まで、イタリア、フランス、中国の企業が共同で請け負い、世界銀行からの一〇億八〇〇〇万ドルの融資を受けている。文化大革命中の、何から何まで自力更生でやりぬくという経済・技術戦略とは、なんという変わりようであろう。
 
世界の人口の五分の一を占める中国が、その門戸を開いて急速に国際化しつつある。あらゆる分野の多国籍企業が、中国大陸にも、中国周辺の沿海にも宇宙空間にも続々と進出しつつある。中国の国際化が進むにつれて、海外の動きと連動して、さまざまな利害関係や思想が生じることは避けられない。そのため、広大な中国全土にわたって、北京から十二億の人を政治的に統括するのは、次第に困難となるに違いない。
 
各省・自治区の分権化は、建国後も何度か試みられ、そのつど混乱が生じて中央集権化に戻ることをくりかえしてきたのだが、結局は分権化へと進まざるを得ないのではないか。これも性急に行えば、中国は混乱し、その影響は東アジアから世界にも及ぶであろう。アメリカへの一極集中から多極化への移行と同じく、二一世紀の世界は、中国がいかにして分権体制に軟着陸するかという課題につきあたる。
 
ところで、日本と中国を含めての東アジアの諸国・地域の対米輸出依存度は、ひところより低下したとは言え、依然として高い。それぞれの対米輸出額と総輸出額に対する百分率、さらに対日輸出額・輸入額、主要輸出商品の第一位、第二位を示す。東アジア諸国・地域は、家庭用電子機器やそれらの部品や衣料などの生産と輸出を軸として、経済成長を推進し、それによって域内市場を拡大させつつあり、その点て、世界のなかでも際立った特徴を持っている。また主要輸出品の対米依存度や、主要輸入品の対日依存度がきわめて大きいことでも特徴がある。

2015年11月7日土曜日

軽催眠段階の催眠

催眠療法というものは、深い催眠状態がえられなければ効果がない、と思われてきた。しかし、催眠に深くかかるかどうかは、ひとつは治療面接にのぞむ患者の態度により、また個人差にもよる。大切なことは、治療をもとめてきた人が、どの程度の深さの催眠状態になるかに応じて、それによく合った方法を用いることである。浅い段階でも、治療のすすめ方によって、十分効果があるものである、催眠の深さは、現在いろいろな研究者によって、さまざまなスケールが考案されている。では、類催眠段階、軽催眠について説明しよう。類催眠状態では、覚醒暗示が用いられる。ドイツの精神医学者、J・H・シュルツの自律訓練法やアメリカの心理学者、E・ジェイコブソンの漸進的弛緩法のような自己催眠の技法などがこの段階でよく用いられる。また半睡幻想法といって、目を閉じさせ、ゆったりした状態で頭に浮かぶイメージをつぎつぎに述べさせる方法もある。

軽催眠段階の催眠がえられると、症状除去法などが効果的である。夜尿癖の子供などは、この状態の催眠暗示で、夜ねるとき、おしっこが出たくなると、その感じがはっきりわかり、深く眠っていてもパッと目がさめる条件づけをしておき、手洗いに行って、またねどこへもどり、ゆっくり眠れるというイメージを浮かべさせる方法で、数回面接を行なうと夜尿が消失する。また、観念運動を利用して、たとえば手にもったふりこが、質問に対してイエスならば動く、ノーなら動かないと暗示しておき、問いをすすめて心の悩みの原因をさぐり出す方法も利用できる。描画法といって、絵を書かせる方法も、心の奥の願望をあらわにするのによい。

2015年10月7日水曜日

冷戦体制からの脱却

朝鮮の分断への積極参加というコストを払って日本側は韓国市場を手に入れた。そういう積み重ねが多いものですから、アメリカのヘゲモニーのもとでの冷戦を変えようといった発想が生まれにくい。そこに見られる冷戦体質は、日本人が意識しているより以上に、根深いと私は思います。たとえば、こういう現象があります。『朝日新聞』が八七年のワシントンでの米ソ首脳会談の後で、西側の国との比較の世論調査をしました。「東西緊張はこれから緩和すると思うか」という設問に対して、「緩和しない」というのは日本が一番高くて五〇%、アメリカの四五%よりも高い。西ドイツは二八%で一番低かった。「ソ連はいままでより信用できる国になったか」というのについても、「なった」が日本が一番低くて三四%。

これに対して、米国五五%、英国六五%、フランス五四%、西ドイツ七三%です。つまり西ドイツのような最前線国家として冷戦の苦しみを味わってきた国の国民は、この逆境から脱却することがいかに必要であるかということを切実に感じており、冷戦体制からの脱却を可能にする兆しとして、極端にいえばすがるような思いでINF交渉を受け取ったというところがあるのでしょう。ところが、日本は軍事的には明らかに前線国家であり前進基地なのですが、海があるということも影響しているのか、心理的にばその意識がきわめて薄い。冷戦の怖さの自覚が乏しく、むしろ冷戦に安住している。

第二には、日本政府が冷戦の現状を変えるために何もしていないということ自体が理由になっていると思われます。つまり政府が対ソ関係を変えないことが、対ソ関係は変わらないというイメージを国民に植えつけるし、さらには対ソ関係は変えられないというイメージにさえもなる。そこで政府は対ソ関係を変える方向での内圧を受けないですむ。こういう変な循環が起こってしまっていて、ソ連との関係は可塑的なものであるという意識が非常に薄い。このことも、冷戦的なメンタリティを持続させる一因になっています。

第三に、米ソ関係の変化という実態があるのに日本人の対ソ意識が変わらないというギャップは、米国とのかかおりにも根ざしています。たとえば貿易摩擦という背景もあって、米国から高価か兵器を大量に買っています。対潜哨戒機P3Cを一〇〇機ぐらい買うというのですから、世界に冠たるものです。しかし、こうした対潜兵器の増加と高度化は、当然にソ連を刺激する。そこでオホーツク海や日本海で、ソ連はそれに対応した海軍力の強化や活発化の行動をとる。そうすると、「ソ連はヨーロッパでは軍縮だなどといっているけれども、太平洋側では依然として変わらない、だからもっと日本は軍備と日米軍事協力とを強化する必要がある」という論理で、米国からまた高価な兵器を買うことになります。

こうした兵器購入の起こりは、歴史的には対ソ冷戦でしたが、八〇年代には日米経済摩擦の一環として起こっている面がかなり大きい。要するに米国は日本に高額のハイテク兵器を売って、日ソ関係を緩和しにくい状態にする、そうすると日本がまた兵器を買ってくれる米国はそういう枠組みをつくって、日ソ関係を緊張させておけば、日本にいい市場が確保できるわけです。そのペースに日本は乗ってしまい、米国が日本経済を日米同盟のとりこにしている。その半面でレーガンとゴルバチョフは握手をしており、米ソの経済関係はこれから強まっていくでしょう。日本はこれに取り残されており、必ずしも対ソ関係からではなくて、対米関係の反射的効果として対ソ関係が凍結してしまう、という泥沼に入りかかっていると懸念されます。

2015年9月7日月曜日

インターネットが産業活動に与えるインパクト

直接に消費者を相手とする取引だ。しかし、インターネットが産業活動に与えるインパクトでより重要なものは、企業内の情報システム中企業対企業の取引に対するものであると考えられている。『ヒジネスーウイーク』九九年三月八日号の記事は、バイアグラの申請から認可までにかかった時間は従来の新薬の場合の半分であり、それは、ファイザー社が必要データをウェブサイトに準備したからであった。従来であれば必要だった膨大な書類の準備も、必要なデータを探す手間がなくなったために、審査期間を著しく短縮できたのだそうである。

製造業においてネットワークが活用されるいま一つの重要な場面は、部品メーカーや原材料の調達先などの選定と発注だ。現在すでに、多くのメーカーがインターネットを通じて全世界に情報を流してメーカーを選定する方式を導入し、事業を著しく効率化している。

ジェネラルーエレクトリック(General Electric)は、一九九六年、オンラインの部品調達システムを同社の照明部門のGEライティング(GE Lighting)に導入した。これは、入札依頼を世界中の供給業者にインターネット経由で送り、納入業者がインターネット経由で入札を行なうシステムである。

GEライティング社は全世界に四五の工場を保有し、調達担当者は毎日数百件にのぼる機材等の部品調達希望を受ける。このシステムの導入以前は、担当者は二〇〇万枚以上の図面のなかから必要なものを探し出し、入札候補企業に郵送していたという。そのため、部品調達に必要な資料を発送するだけでも七日間かかり、発注先決定まで三週間以上かかっていたという。

システム導入後、部品供給の候補となる企業は、発注作業開始後二時間以内に調達情報を受け、七日以内に入札することが可能となった。このシステムの導入により、人件費が三〇%削減された。また、調達プロセスの所要日数が、従来の二〇日程度から、一〇日程度になった。さらに多数の供給元による入札により、有利な価格での調達が可能になり、原材料調達コストが五~二〇%削減された。

2015年8月7日金曜日

同期生の家庭環境

私は自分に納得のいく仕事をするために外務省を選択した、という安心感は、その後、外務省に入ってからも、そして、その職業を離れたいまでも、私の精神的安定剤として働いてきた。

仮に外交官選択の動機が華やかさを求める若気にあったとしたら、大学の友人が心配してくれたように、おそらく挫折していたのではないかと思う。外務省という職場で経験した仕事の中身こそが、私のような性格の人間でも、二十五年間も外務省で働くことができた最大の魅力なのである。

本来なら、外交官を網羅してその家庭環境を分類してみることができたら、と思う。しかし、そのようなことをするために必要な資料は持ち合わせていない。ここでは、それに代わるものとして、私の同期生(私を含めて一七人)について若干の点を指摘して、「華やかさ」にまつわる一般的イメージの誤解を解いておこう。

同期生の中で、外交官「二世」「三世」であった者(つまり、父親さらには祖父が外交官だった者)は二人いた。しかし、その他の一五人の家庭環境は、それほど目を見開くようなものではなかったと思う。なかには、私が現在ももっとも個人的に尊敬してやまない者のように、両親が居らず、妹の面倒をみるために学問の世界への道を断念して外務省を選択した人もいたし、高校卒業後いったん就職し、その後、東大に入り直して外務省に入ってくるという猛者もいた。

本人の家庭環境を補うものとして、通俗的な刊行物でよく取り上げられるのが、妻になる人の家庭環境である。しかし、私はこういう方面のことにはまったく関心がない。外務省に入ったときに既に結婚していた同期生も数人いて、研修旅行のとき、その中の一人が髭を剃りながら、「こうして顔を郷める図は、とてもワイフには見せられない」といったことが、妙に記憶に残っている程度である。

2015年7月7日火曜日

ペスト菌は肺で活発に増殖

ヒトが保菌ノミに刺されてペスト菌が感染すると、腺ペストという病型のペストになる。この場合、肺にも病巣ができ、ペスト菌は気道の分泌物と一緒に排出される。この分泌物を介してほかのヒトの肺に感染が生じると、今度はペスト菌は肺で活発に増殖するようになり、多量のペスト菌を分泌物と一緒に排出するようになる。この病型は肺ペストといわれ、ヒトの間での大流行は呼吸器伝染病の形を取る。しかしペスト菌が、ヒトの間に安定した感染環をつくれないのは、この菌が肺に常在菌として定着できる条件が欠けているからではないだろうか。コレラはガンジス河三角州とバングラデシュの地域に、地方病として持続的に存在しているものである。しばしば全世界的に大流行を起こす。大流行を起こした場合には成人も発病するが、地方病としてのコレラはもっぱら子供の病気である。

これは、免疫現象がコレラにもあることを明確に示している。ふだんコレラが流行していない地域では、成人してもコレラ菌の感染が成立してしまうが、いつも流行している地域では子供のころにすでに感染し、免疫を獲得していると考えられる。また地方病として持続的に存在しているということは、そこでコレラ菌の感染環が保持されているということになる。その条件として、どのようなものが考えられるだろうか。コレラ菌は海洋性細菌であり、自然界ではヒトだけが宿主になるようである。コレラが典型的な消化器伝染病であることも考慮する必要がある。

2015年6月6日土曜日

縦割り組織化

このように猫の手も借りたいほど忙しい状態の職場であれば、経験の浅い新人であっても、いつしか自然と仕事を割り振られることができた。つまり、業務経験を積むことができたわけだ。それに当時は年功序列が主流で、小さな企業であっても平均的に毎年採用が行われていた。年上の先輩が後輩を教え、さらに翌年にはその後輩が先輩となって新卒を教えるという、教育の流れが断ち切られにくい状況があったのだ。企業にも余裕があったので、OJTも計画的に行われていた。実際、前出の図10を見てみると、バブル崩壊前の90年代前半までは80%程度と、現在の倍近い計画的OJTが行われている。

しかし、失われた10年やリーマン・ショック後の日本社会のように、経済成長率がマイナスに落ち込んだり、1%、2%程度しか経済成長できないような社会においては、仕事量が増えるどころかどんどん減ってしまう。今まで通り仕事をこなしているつもりが、いつのまにか新人に割り振るべき仕事がなくなっていき、社内失業化してしまう。そんな事態が起きているのだ。まずは国内の仕事の減少傾向について見ていこう。日本の企業は現在、仕事を人件費の安い海外にアウトソースする傾向がある。BRICSを中心とした新興国への日本企業による生産拠点の移転は、一層の低賃金・低コスト化を目指してグローバル化しているが、ここにきて、新興国の人材の質も向上し、語学面の障壁を始めとしたインフラが整備されつつあることを受け、人事・総務といった企業の管理部門を海外にアウトソースする動きが活発化している。

既に多国籍企業のなかには、総務はマレーシア、人事はフィリピン、購買は中国といった国際分業体制を構築しているところもある。日本企業の海外への業務アウトソースは、まず、生産性が低く、パターン化・マニュアル化しやすい業務について、低賃金の新興国に移転させるのが一般的である。コールセンターやバックオフィス業務など、事務の仕事を海外にアウトソースした企業は2500社を超える。さらに、従来は付加価値が高く、海外への移転が難しいといわれていた管理部門についても海外でマネージすることで人件費を抑えようとする企業戦略が生まれている。

今までのように工場を移転するのみならず、人事や総務といったホワイトカラーの仕事までもが、海外にアウトソースされているのだ。減っているのは職場の業務量だけに留まらない。国内の需要そのものが減っていくという予測もある。独立行政法人 労働政策研究・研修機構「今後の企業経営と賃金のあり方に関する調査」では、日本国内の今後の需要の見通しについて「減少する」と答えた企業がなんと64%であった。しかも海外からの需要が増える見込みと答えた企業はわずかに99・2%。国内需要が減っている一方で、海外需要を取り込めていない。自社商品・サービスの需要が減少していけば、当然社内の仕事量も減少していくことになるわけだ。

その結果、今までは意識しないで放っておいても解決されていたような、社内失業者を生み出してしまう組織の問題点があらわになってしまう。以下で詳しく見ていこう。縦割りは、セクショナリズム・部局割拠主義とも呼ばれる。組織内の各部署間にある「見えない壁」のことで、本来ならば組織全体の利益を考えて動くべき状況でも、縄張りや派閥にこだわることで互いの情報共有を妨げてしまい、結果的に組織全体の利益が減少してしまう問題だ。「営業部のことに広報部が口を出すな」「うちの部署の売上にならない仕事に手を出すな」どこかで聞いたことのあるセリフではないだろうか。組織の縦割り化が結果として仕事量の不均衡を生み、社内失業へとつながってしまう。以下で図解しながら説明しよう。

2015年5月12日火曜日

手持ちの人脈をフルに活用する

彼らが日本に赴任する幾つかの理由として、「日本の機能を中国などに移すための調査をしに来る」「日本のポテンシャルに見切りをつけ投資の回収を最大限に行なおうとしている」「本社の誰もが難しいと考えている日本法人の建て直しを目論んでいる」「日本に家族や関係の深い友人がいる」などが挙げられる。日本支社を縮小するた・めの調査を目的とした赴任ならばどうしようもないが、日本支社を拡大しようとしているならば、手を組む余地は大いにある。また日本人の配偶者や恋人がいる場合は、損得抜きで日本で働くことを考えている可能性もある。

日本の事業を再成長させようと考え、現在ではあまり人気のない日本を自ら希望して赴任してきた外国人上司は、使いようによっては、あなた自身のキャリアも向上させてくれる。どうせ上司とは、文字通り同じ舟に乗っている訳だから、「死なばもろとも」と忠誠心を発揮して、彼らの目論見に協力するのも悪い選択肢ではない。日産自動車の再生も、そうした外国人ヒ司に協力した日本人スタッフの力によって成功したのではないかと私は考えている。特別任務を帯びている外国人上司との接し方。最後に、「特別任務を帯びている」外国人上司については、どうだろうか。

隠れた意図やミッションが上司にあるときに注意すべきは、その赴任期間である。赴任期間が当初から一年それ未満と予想される場合、その特別任務は調査に留まる可能性が高い。しかし任期不定、または長期化が予測される場合、日本法人の抜本的改革や大幅な縮小(逆に拡大する場合もある)、閉鎖や売却、あるいは日本企業やライバル外資の買収といった荒業のための赴任かもしれない。その特別任務が日本で働く社員にとって好ましいものかどうかは内容による。いずれの場合も、大切なのはその任務の概要をできるだけ早く正確に知ることだ。本人から聞くことができればそれに越したことはないが、任務が重要であればあるほど、現地の社員には知らされないと思ったほうがよい。ならばどうするか。

一番簡単なやり方は、赴任してきた外国人トップに親しい日本法人スタッフ(外国人の場合も日本人の場合もあるだろう)から聞き出すことだ。それが難しければ、本社で親しくしている幹部(こちらも外国人と日本人の両方の可能性がある)に尋ねることである。これがうまく行かない場合は、赴任した外国人トップの行動をフォローして、推論を組み立てるはかない。彼(彼女)が不在がちであれば、社外で特別任務の打ち合わせをしている可能性が高い。社内で行なわないのは、日本法人や支店の社員に秘密にしておきたいことがあるということだ。その秘密が、日本切り捨てか、あるいは拡大か。予測するのは意外と難しい。

以前ならばリストラである可能性が高かったが、日本でもM&Aが認知された今日では、日本企業を買収して、日本でのオペレーションを大幅に拡大するという可能性もある。その特命チームにあなたが入ることができれば、内容について詮索する必要はなくなる。だが、そうでない場合、手持ちの人脈をフルに活用して、社内のライバルよりもできるだけ早く、正確に実態をつかまなければならない。そうした、迅速な対応がその後の転職活動を含めて、行動の選択肢を増やすことになるのだ。

2015年4月7日火曜日

種痘の対象となったウイルス病

痘庸はジェンナーによる種痘の対象となったウイルス病で、アバタという皮膚の後遺症を遺す。そのために皮膚から皮膚への感染が感染環を維持しているように考えられるが、この病気は実際には呼吸器感染症である。ウイルスは呼吸器から感染した後、血液の中に入り、皮膚も含めて全身に分布してさらに増殖する。皮膚の病巣にもウイルスは存在するから、それは感染源になりうる。種痘法の前の予防法に、人痘法というものがあった。

人痘法の術式のひとつは、患者の皮膚の病巣由来のウイルスをほかのヒトの皮膚に接種するものだった。この場合、皮膚に接種されたウイルスが全身に分布して、痘愉になってしまうこともあったのではないかと考えられる。痘愉は、世界的に撲滅宣言が出された伝染病である。このことは、痘愉という病気がどれほど人類を苦しめてきたものであるかを示すとともに、感染環を断ち切ることが比較的容易であったことも示している。その理由の一つは、種痘法の普及や隔離の徹底が効果を発揮したことの他に、痘愉ウイルスでは、ヒトだけが本来の宿主であるからだろう。

この菌もまた海洋性細菌なので、牛の魚介類を食べる習慣のある日本に、腸炎ビブリオによる食中毒が多いことは理解できる。同し細菌性食中毒でも、欧米ではサルモネラ菌によるものが多いことも、食習慣の特徴から説明できる。肉や鶏卵が、サルモネラ前によって汚染されている場合があるからである。腸炎ビブリオが起こす症状は激しい下痢である。これは、やはりある毒素によって生じることが分かっている。では、この毒素が人の腸管に悪い作用をもっているのは偶然なのだろうか。腸炎ビブリオは海洋性だが、海産の魚介類を本来の宿主とする細菌なのだろか。

もしかしたらこの毒素が、そのような宿拉にある種の病原作用をもっているのかもしれない。しかしいずれにしても、このビブリオはコレラ菌とちかってヒトの問に感染環を形成することはない。あまり聞き慣れない名前をもった細菌が胃粘膜に寄生している。一般に、胃は細菌の生息に適した所とは言えない。しかしこの細菌は胃液の酸度を中和できるために、胃に住めるようである。これは極限環境微生物の一種と言える。この菌が胃潰瘍の原囚になっていると言われているが、感染環はどのようなものだろうか。

2015年3月7日土曜日

まるで変わらないお粗末な金の使い方

ところで日本の財政運営の実態が「この期に及んで」とはき捨てたくなるほどお粗末な内容を含んでいることも事実である。財政が政治の金銭的表現であることを考えれば、とりも直さず性懲りもなく既存のシステムに寄生する日本の政治の問題である。より具体的には、お粗末な政治家だちと、彼らを選び出している有権者の問題である。

その最たるものは、公共投資である。景気対策のため、建設会社が消化しきれないこともあるほどにばらまかれているが、日本が将来に向けて必要とする公共的基盤への集中的配分が行われていない。

相も変わらず道路、河川、港湾、農業基盤。要するに建設省、運輸省、農水省の官僚と各種事業にはりついた「族」議員たちの組織、票田、利権を守るための支出である。

日本の社会と企業が大急ぎで進めねばならない構造転換に即していえば、何よりも高齢化と情報化のための基盤投資を急増させる必要がある。このことが言われてすでに十年余。

つまりは日本が米国などから憐みと軽侮の目をもって見られるに至った「九〇年代」が始まる前から、各方面で言われてきた。年々の予算編成の中でも「目玉商品づくり」に、この高齢化と情報化が言われてきた。

しかし、日本の都市も農村も、高齢者が安心して歩けるような姿に変わってきた形跡はない。介護施設といえば、相変わらず「姥捨て山」を思わせる集合住宅にすぎない。介護のマンパワーの貧弱さとも相まって、日本の介護システムは、全体として老人の活力を奪うものとしかいいようがない。

情報化投資のお粗末さもまた、目を覆うばかりである。端的にいえば、日本の国上のすみずみまでが、たとえば十円玉一つぐらいで完全につながり、米国のように小規模の情報ビジネスが雲霞のごとく立ち上かってくるような通信システムを確立するための光ファイバー投資などを急ぐべきだろう。それはもちろん、海外ともつながることのできるものでなければならない。

2015年2月7日土曜日

世界一の賃金がもたらすもの

ドルで測った賃金の大幅上昇という現象は、実際の日本経済にかなり大きな影響を及ぼしている。それは次のような点だ。

まず、日本企業の海外進出が本格化している。日本企業にとっては、日本で生産するということは、世界一の賃金を払った上で他の国々と競争しなければならなくなったことを意味する。逆に、他の国々の労働力が安く使えるようになった。これまでも安い労働力を求めて海外に進出するということはあった。しかし、その場合の進出先はもっぱら途上国であった。

円高以後は先進国に進出しても日本より安く労働力を調達できるようになったのである。円高以後、日本企業がこぞって海外に生産拠点を移し始めた大きな理由はこの点にある。

外国人労働力問題が重要な問題になってきたのも高賃金が原因だ。海外、とくに東南アジア諸国からの労働力の流人は著しいものがある。ドルでみた所得と我々の生活実感との乖離が広がったことも重要だ。このように、ドル建てでみた賃金が上昇したことは、雇用面だけでなく経済的にも大きな変化の波を起こしているのである。

国境で守られている労働市場は最も国際的影響が及びにく市場である。しかしこれは、労働の需要者である企業、供給者である労働者の範囲がともに国境内に限定されているときにのみ成り立つ話である。この条件は円高によって崩れ、日本の労働市場はいやおうなしに国際的次元での構造調整の荒波の中に投げ込まれることになった。

2015年1月10日土曜日

結婚の習俗

内部の装飾が奇抜なのが、インド西部、パキスタンに近いグジャラート州力ッツチ地方に住む民族集団ラバリの家だ。白っぽい土壁に草葺きかスレート屋根という外見はそう印象的なものではないが、なかに入ると部屋の壁一面に幾何学的な浮彫り模様が施され、随所に色ガラスや む小さな鏡が埋め込まれている。

ラバリの女性はサリーではなく、腹掛けのように背中の開いた上衣と、ロングスカートに、頭から足元まで垂らした布で背中を隠す独特の衣装を身に着けるが、とくに、たくさんの小さな鏡を色とりどりの刺繍糸で縫い止めるミラーワークという技法を使った子供服や成人女性のハレの衣装は、それは華やかなものだ。このミラーワークが住まいにも使われているわけで、きらびやかな内壁を造るのはもちろん女性の仕事となっている。

ヒトは生まれ、第二次性徴期を経て生殖し、やがて死ぬ。生物としてはそれだけのことだが、人間社会はその自然の営みをさまざまに解釈し、儀礼をおこなう、という文化を育んできた。二○世紀はじめにフランスの人類学者ヴァンージェネップは、誕生、成年、結婚、死といった人生の節目にともなう儀礼を、通過儀礼という用語で説明した。通過儀礼の「通過」とは、人間がある社会的身分から次の身分へと段階的に移行することをいう。

通過儀礼は基本的に、個人は「死」という形式を経て、新たに生まれ変わるという、世界の習俗に広くみられる概念に注目するものである。成年式や宗教集団への加入式など、とくにイニシエーションとよばれる種類の儀礼では、ある時間ないし期間、当事者を隔離して試練が課されたり、死と再生を象徴する儀式がおこなわれたり、新しい服飾や名前が与えられるなど、多くの社会でかなりの共通性が見られると、一般的にはいわれる。

もっとも日本では、この種の儀礼は昔からどうも印象が薄い。七五三、十三参りや元服式などの成年式が日本のイニシエーション儀礼の代表だが、着物や髪形を変え、とくに成年式では禅や腰巻き、女子なら鉄漿(お歯黒)を初めてもちいるというような装いに関する習俗が中心で、割礼その他の身体的な加工や厳しい試練が儀礼に組み込まれることはあまり一般的ではなかった。

2014年12月8日月曜日

内発的発展史の視角

『東アジア資本主義の形成上比較史の視点から』東アジア資本主義の現状分析によってのみこの「成長センター」のダイナミズムを究明しようという、昨今「はなやか」な、しかし「短絡的」なやり方への不満にある。東アジア資本主義が今日を築いてきたのであれば、そこにはそれだけの内在的な歴史があったはずであり、これを比較史的な方法から導出すべきだ、というのが本書の研究スタンスである。そうした研究の端緒はすでに浜下武志氏や川勝平太氏などによって開かれていたが、本書のような共同研究の成果が公刊されたことは喜ばしい。

東アジア資本主義は従来の欧米中心の経済理論では、開発経済学であれ、近代化論であれ、はたまた従属論であれ、これを十分に解明できないと中村哲氏はいう。それらに代わる理論的仮説を氏がここで提起しているわけではないが、少なくとも次の四つは新理論構築のための要件であるという。一つは、経済を社会、政治、文化等と関連させて捉えること。二つは、東アジアの各地域、民族、国家の主体性を組み入れた理論であること。三つは、歴史的観点に立った国際比較。四つは、東アジア地域の全体像の把握、である。

本書を通読して、とくに私の関心を誘ったのは第二の視角、すなわち中村氏のいう「非欧米の視点」から周辺部を眺めることの重要性である。従来の世界資本主義論は周辺部の搾取・収奪・被支配の面からこれを論じるのがつねであったが、それでは東アジアの現在の発展は説明できないという至極もっともな観点がここで提供されている。

中村氏の議論を補強しているのが、堀和生氏の秀逸な論文「植民地の独立と工業の再編・台湾と韓国の事例」である。ここでは、植民地支配期においてすでに朝鮮、台湾では資本主義的生産様式が支配的であり、それがゆえに帝国主義勢力・日本との関係断絶後も、少なからぬ変動をともないながらも、はやくも一九五〇年代に新たな発展軌道を両者が見出し得たことを明らかにしている。ある種の「内発的発展論」であろうか。

宮島博史氏の「東アジアにおける近代的土地改革―旧帝国支配地域を中心にして」では、韓国、台湾の経済発展の基礎となったのが両地域における近代的土地制度の短期における徹底的な施行にあったと主張されている。その施行を可能ならしめた東アジアの要因を、氏はこの地域が小農社会であったことに求めている。

すなわち東アジアが独立した上地経営を旨とする小農から構成され、それゆえ個々の上地に対する権利関係が比較的明瞭であったがために、土地領有権という上部構造さえ取り除かれれば、旧来の上地関係がそのまま認定されるという構造にあったという。面白い指摘である。しかし、近代的土地所有関係の変革が資本主義的発展につなかっていく経緯はなお究明されていない。

2014年11月7日金曜日

どこかしこも問題の先送り

訴えてくるのは氷山の一角ですが、それさえ抑え込めば、その背後にある何百、何千、何万のケースが抑えられることもあります。訴えが殺到するのは異常事態なのだから、なんとか事前に食い止めようということにはとても敏感で、そんなところで裁判官は、「自分が社会の秩序を維持する正義の味方だ」と思っているのかもしれません。

弁護士においても、なるべく違法なことがないように物事を解釈しようとする人がいます。「違法だとしたら、今までやっていたこともすべて違法になるから、それはおかしい」といった本末転倒の思考がときどき出てきます。本当はその考え方こそおかしいのですが、「それが実務というものなのだ」と言わしめているのが、合法的解釈に長けた「裁判実務的思考」にほかなりません。

結局、「問題かおりそうでも、なるべく問題はないに越したことはない」という気持ちがさらにオーバーランして、「問題があっても、ないことにしよう」という方向に走りがちになります。「法律違反があったかどうかは別として」などといって、とにかく事件を処理することだけが目的となり、問題を闇から闇に葬るテクニックやシステムが確立しているわけです。

本当に問題がなければそれでも良いのですが、臭いものに蓋をしているだけで、実際に問題があることには変わりかおりません。単に深刻な現実から目をそらしているだけなのです。それでも、「問題が認識されていなければ問題がないのと同じだよ」という結論だけ聞かされて、むりやり安心させられているのが日本国民のようです。

2014年10月7日火曜日

遺跡で「古代ギリシャ劇」

私自身の体験からは、島々を中心とした観光地全般の町づくりがよいことを挙げたい。島では、どの辺りに景色のよい展望台や見所があるのか、どこを目指して行けばよいのかだいたい決まっている。特に小さい島なら船が着く港町と、修道院や城が頂上に築かれ広場や繁華街が広がる城砦型の町のふたつに見所が集中しているという特徴に手を加えていないのだ。主要ビーチには決まって路線バスが出ている。そのままの町並みを保存することで、観光客は地図やガイドブックを持たずとも、気軽に散策できる。その心地良さは、安心感や満足感につながっていく。

ギリシャ観光の最後の要素は、各々の観光地が見るだけに留まらない魅力作りをしていることだ。まずはギリシャの旅として代表的なスタイルのひとつ、クルーズの例からお話ししていこう。クルーズは地中海に浮かぶ島々のリゾート地を船で巡るもので、様々な種類がある。盛装して優雅にディナーやダンスを楽しむ豪華な客船から、食事の回数や停泊先の島でのツアーの有無がオプション形式になっている気軽なものまで自由に選ぶことができる。日数や船の大きさも好みのものを選べばよい。ギリシャに入国する前からクルーズを予約している人が大半だが、1日クルーズなどであれば、現地に着いてから参加することも可能。

スニオン岬のポセイドン神殿や、エギナ島のアフェア神殿、ディロス島のアポロン神殿などの遺跡群を眺めながら船旅ができるのはギリシヤならではだ。ギリシヤ政府観光局も他では味わえない体験として、クルーズのアピールを続けてきた結果、今や老いも若きも、セレブからバックハッカーまで、参加しやすくなっている。そんな島々を一生の思い出の場所にする企画も人気を呼んでいる。ウェディングだ。青い丸屋根の教会など、まさにギリシヤらしい景観が人気のサントリーニ島では、日本人や中国人カップルの挙式もよく見かける。俳優の石田純一さんが東尾理子さんにプロポーズしたと報じられたミコノス島も挙式やハネムーンに人気だ。

ギリシヤの島が舞台の大ヒットミュージカル「マンマーミーアー」は、メリルーストリープ主演で映画化(2008年)されたことで、撮影が行われたスキアトス島やスコペロス島も、ウェディングやハネムーン人気が急上昇したという。最近、特に中国、韓国人旅行者の間でのウェディング人気が高いのは、テレビでの影響が強いそうだ。後にも触れるが、ギリシヤにはテレビコ了-シャルや映画の舞台として絵になる遺跡などが多い反面、長年、考古学委員会の厳格な規制が障害となって撮影許可をとるのが難しく、敬遠されてきた。しかし近年、文化観光省がハリウッド映画の遺跡撮影に全面的に協力するなど、国をあげてメディアによるアピールを重視したため、積極的に海外メディアのロケも行われるようになり、それが客を呼んでいるわけだ。

この国の夏は雨がほとんど降らず、夜間も月が美しい。8月中句はちょうど日本の十五夜のように月見の習慣がある。毎年8月の満月が輝く週末には、ギリシャ全土の遺跡や博物館が夜間無料開放される。青い月の光に照らし出される遺跡は、昼間とはまた違う幻想的な雰囲気を湛えている。といっても、ただ見せるだけでなく、今ではそれらを利用したイベントが頻繁に行われている。特に6、7、8月は音楽、演劇、現代舞踊、絵画展覧会などさまざまな催しが目白押しのフェスティバルが開催される。

2014年9月6日土曜日

将来を予見する能力

米国の賛成とて、怪しいものである。「拒否権」なしにしろ日本を常任理事国にするということは、話にあかっている他の三国もしなければならない。ところが、ドイツは味方してくれるとはかぎらないことは実証済みだし、インドはともかくブラジルもこの点では同類だ。一人の味方を引き入れる代わりに、敵にまわる可能性少なからずの国を二つも同時に引き入れるほど、米国はお人良しであろうか。そして、ロシアと中国。もしもこの二国も拒否権なしの日本の常任理事国入りに同意するとなれば、それはもうすさまじい代償、つまりカネとの引き換えになる怖れがある。それはどの代償を払ってまで、得る価値をもつ地位であろうか。

「ハイレベル」には悪いが、安保理改革はおそらく今回も現実化しないだろう。改革の鍵をにぎる国々に、改革してトクなことは少しもないからである。ゆえに日本が為すべきことは、血迷ってわれを忘れることではなく、何をどうやればディグニティをもちつつ国連に協力できるかを、冷徹に見極わめそれをやることだと思う。古代のギリシア民族が神話・叙事詩・悲劇・喜劇を通して創造した人間の種々の相は、二千五百年が過ぎた現代でもその適確さをまったく失っていないが、その一人にトロイの王女カッサンドラがいる。

この王女に恋した男神アポロンは、将来を予見する能力を贈物にすることで彼女に迫った。目的はもちろん、ベッドを共にすること。多神教の世界であった古代では、神々といえども人間的なのである。それゆえか、その神の一人に惚れられた人間のほうも、恐縮のあまりに簡単にOKする、などということはない。カッサンドラもアポロンに、決然たる態度でNOと言う。それには怒ったアポロンだが、そこはやはり神、ならば贈物は返せなどと、ケチな人間の男のようなことは求めなかった。贈った予見能力は、以後も彼女がもちつづけることは認めたのである。ただし、ある一事をつけ加えた形で。

それは、カッサンドラがいかに将来を予見し警告を発しようと、人々からは聴き容れられず信じてもらえない、という一事だったのである。トロイは、彼女が予告したとおりに滅亡する。だが、落城時の阿鼻叫喚の中で、誰が、これを早くも予想しそれへの対策を訴えつづけていた王女を思い出したであろうか。予言しても聴き容れてもらえず、それが現実になったときでも思い出してもらえないというのだから、これ以上に残酷な復讐もない。

以後、ヨーロッパでは、現状の問題点を指摘し対策の必要を訴えながらも為政者からは無視されてきた人を、「カッサンドラ」と呼ぶことになる。まるで、有識者や知識人の別称でもあるかのように。これもまた、何かを与えれば別のことは与えないというやり方で、神でも人間でも全能で完璧な存在を認めなかった、いかにもギリシア的な人間観と言うしかない。前回でとりあげた国連改革「ハイレベル」委員会の答申を読んでいて、自然に思い浮んできたのが、日本の政府や省庁が活用しているらしい各種の審議会であった。